MES比較で迷わないための5つの評価軸|パッケージ・スクラッチ・第3の選択肢

MESを比較・検討し始めると、多くの企業が「どの製品も対応可能に見えて、違いが分からない」という壁にぶつかります。

MESは、製造指示、実績収集、品質管理、設備連携など、製造現場の中核を支える仕組みです。

一方で、生産形態や工程、既存システム、拠点構成は企業ごとに異なるため、機能一覧や価格表だけでは自社に合う製品は見えてきません。

さらに、構築方式も単純な「パッケージかスクラッチか」の二択では整理しきれない時代になっています。

本記事では、MES選定で失敗しないために確認したい5つの評価軸を整理したうえで、パッケージとスクラッチの違い、そして両者の長所を併せ持つ第3の選択肢について分かりやすく解説します。

評価軸① 自社の製造プロセスに適合するか

MES選定でまず確認したいのは、自社の生産形態や独自工程との適合性です。

同じ組立型の工場でも、標準品中心か個別仕様中心か、設備主体か人主体か、拠点間で工程を分担しているかによって、必要な仕組みは大きく変わります。

そのため、「同業種への導入実績あり」という情報だけでは判断材料として不十分です。

候補ベンダーには、以下のような点まで確認しておきたいところです。

■見極めのポイント

・どのような生産形態、製品カテゴリへ導入したのか

・独自工程をどう実装したのか

・既存のERPなど基幹システムとどう連携したのか

・設備やPLC、検査装置からのデータ取得をどう設計したのか


そのうえで意識したいのが、現行業務をそのままシステム化することを目的にしないことです。

現行業務には、競争力の源泉となる独自工程もあれば、属人的で見直すべき業務も含まれます。

「何を標準化し、何を独自プロセスとして残すか」の整理を一緒に進められるベンダーかどうかは、以降の評価軸すべてに影響します。

「言われたとおりに作ります」というベンダーよりも、業務側に踏み込んで提案してくれる相手のほうが、結果的に良いMESにつながります。

評価軸② 開発生産性と改修容易性を両立できるか

MESは、導入後も工程変更、品質基準の見直し、新設備の追加などに合わせて変わり続けます。

導入時点の機能そのものよりも、変化にどう追随できるかが長期の成否を左右します。

「変更できる」と「変更し続けられる」は違う

多くのMESは、何らかの方法でカスタマイズができます。

しかし、変更のたびに既存プログラムを詳細に調査して一から作り直すような構造では、時間の経過とともに保守負荷が積み上がります。

反対に、標準機能の範囲に強く縛られる製品では、業務変更に合わせきれず、現場側に運用変更を強いる結果になりがちです。

次の観点で確認するとよいでしょう。

■見極めのポイント

・工程や業務フローを、どのような単位で定義・変更できるか

・共通処理や機能部品を再利用できる仕組みがあるか

・画面や帳票を工程ごとに設計できるか

・変更内容や改訂履歴を管理できるか

・特定担当者に依存しない開発・保守体制を築けるか


現場UIについても、この評価軸の中で見るのが実務的です。

「画面を変更できる」機能があっても、画面追加のたびに大きな開発工数がかかれば、継続的な改善は難しくなります。

現場適合性と、それを支える開発生産性はセットで評価する必要があります。

評価軸③ 多拠点展開と標準化に対応できるか

現時点で1拠点のみの導入であっても、将来の多拠点や海外展開の可能性は評価に含めておきたい観点です。

後から製品を変えるのは現実的ではないからです。

全社統一と拠点独自性のバランス

多拠点MESで重要なのは、すべての工場を完全に同じ運用にすることではありません。

次の2つのバランスをどう取るかが本質です。

1)全社で共通化すべきデータ・指標・基本プロセス

2)拠点ごとに残すべき設備・工程・製品・運用の違い

工場ごとにスクラッチで個別最適化すると、短期的には各工場に適合しやすい一方、拠点ごとに異なるシステムが増えていきます。

その結果、「同じ指標でも工場ごとに定義が違う」「同じ機能を重複開発してしまう」「本社から全拠点を同じ基準で見られない」といった問題が生じやすくなります。

反対に、標準化を優先しすぎれば、拠点固有の設備や運用条件を吸収できず、現場に無理な運用変更を求めることになります。

■見極めのポイント

・共通マスタと拠点固有マスタを分けて管理できるか

・共通プロセスと拠点固有プロセスを区別できるか

・開発した機能を他拠点へ展開できるか

・拠点ごとの改修状況やバージョンを把握できるか

・拠点横断で実績やKPIを比較できるか


共通化する範囲と拠点独自性を許容する範囲を分けて管理できるアーキテクチャか
── この点が、多拠点MESの成否を左右します。

評価軸④ 初期費用ではなく総保有コスト(TCO)で比較する

MESは長期利用が前提です。

導入費だけで判断すると、5〜10年のスパンで大きな差が出ます。

<TCOの内訳>

1 導入コスト

ライセンス、要件定義、開発、導入支援

2 運用コスト

保守、監視、障害対応、インフラ運用

3 改修コスト

工程変更、画面・帳票変更、連携追加

4 展開コスト

他ライン・他工場への横展開

5 更新コスト

製品・OS・ミドルウェアの更新対応

6 社内コスト

運用担当者の工数、教育、マニュアル整備

見落としやすいコスト

・スクラッチ:時間の経過とともに、属人化・技術更新・多拠点展開の負荷が積み上がっていく

・パッケージ:Gapを埋める追加開発が積み重なると、製品更新時の影響確認まで複雑化する

いずれも初期費用には現れない部分です。

だからこそ、初期費用ではなく、変更・拡張・運用まで含めた長期コストで比較する視点が欠かせません。

評価軸⑤ ベンダーの製造業実装力

MESは、製品を買えば完成するものではありません。

自社の製造業務を分析し、標準化と独自性を整理したうえで実装する必要があります。

そのため、製品と同じくらいベンダーの実装力が問われます。

■見極めのポイント

・製造業向けシステム構築経験の長さ

・自社と近い生産形態、業種への理解

・構想策定から稼働後支援までの支援範囲

・ERP、基幹システム、設備連携の経験

・多拠点展開や海外展開への対応経験

・製品提供元との連携体制

 

そして最も重要なのは、要望のヒアリングにとどまらず、業務全体を踏まえた対話ができるかです。

標準化と独自性のバランスを一緒に整理していける相手でなければ、現行業務の非効率までシステム化してしまい、導入後に苦しむことになります。

<実際の確認方法>

可能であれば、過去の導入企業に直接ヒアリングできる機会を打診してみてください。

優良なベンダーは、こうした場を用意することに前向きです。

ここで難色を示す場合は、慎重に確認したいサインといえます。

パッケージとスクラッチ―それぞれの構造的な特徴

ここまでの5軸を踏まえ、代表的な2つの構築方式を整理します。

  スクラッチ開発 一般的なMESパッケージ
強み 自社業務に合わせて柔軟に構築できる 標準機能と提供元サポートを利用できる
弱み 属人化、保守負荷、多拠点展開が困難 自社工程とのGapで追加開発や運用変更が発生
向いているケース 独自性が競争力の源泉/自社に開発リソースがある 標準業務に寄せられる/短期立ち上げを重視

一言でまとめると、次のようになります。

スクラッチは業務適合性が高いが、開発・運用を個別に維持する必要があります。

パッケージは製品基盤を活用できるが、業務との適合性に制約が生じることがあります。

どちらも一長一短で、優劣ではなく自社の状況に合うほうを選ぶものです。

両方の弱点を強く感じる場合には、次に紹介する「第3の選択肢」も検討の余地があります。

第3の選択肢―両者の長所を併せ持つタイプのMES

パッケージとスクラッチの中間にあたる考え方として、両者の長所を併せ持つタイプのMESも存在します。

考え方はシンプルで、次の2つを分けて設計するアプローチです。

・製品側で標準化する部分:ロット/シリアル、工程実績、品質記録、拠点横断KPI

・企業側で個別に構築する部分:工程順序、承認フロー、画面入力項目、設備連携条件

データや基盤側を製品側で標準化することで、スクラッチのように基盤部分からすべて自社で維持する負荷を抑えます。

同時に、業務プロセスは企業の要件に合わせて構築するため、パッケージのように現場側へ運用変更を強いる必要も少なくなります。

つまり、次の関係を目指します。

スクラッチの「柔軟性」と、パッケージの「標準化された基盤・サポート」を両立させる。

代表的な例のひとつが、KISが取り扱う DELMIA Apriso です。

ISA-95準拠の統合データモデルを基盤とし、その上でプロセスビルダーやBPM+SOAの開発環境を使って独自プロセスを構築する構造になっています。

注意点として、こうしたタイプのMESは ローコード/ノーコード製品ではありません。

製造業務とシステム設計を理解した開発者が、標準化された開発環境を使って効率よく構築するための基盤という位置づけです。

したがって、選定候補にする場合は、製品の特徴だけでなく、それを扱えるベンダーの実装力も含めて評価することが大切です。

このアプローチが自社に合うかどうかは、次の問いへの答えで判断できます。

自社のMESでは、何を標準化し、何を独自性として残したいか。

この問いを整理できていれば、パッケージ・スクラッチ・両立型のいずれが適しているかが見えてきます。

まとめ

MES選定は、機能表の○×勝負ではありません。

次の5軸で構造的に比較することが、失敗しないための最短ルートです。

・自社の製造プロセスへの適合性

・開発生産性と改修容易性

・多拠点展開と標準化への対応

・総保有コスト

・ベンダーの製造業実装力

そのうえで、「何を標準化し、何を独自性として残すか」を言語化することが、構築方式を選ぶうえでの土台になります。

パッケージが合う企業もあれば、スクラッチが合う企業もあります。

両方の弱点を感じる場合には、その中間にあたる両者の長所を併せ持つタイプのMESという選択肢もあります。

大切なのは、製品を先に決めるのではなく、自社の型を先に言語化することです。

そこから逆算すれば、選択肢は自然と絞られていきます。

MES選定は数か月〜長ければ数年をかける大きな意思決定です。

5軸で候補を絞ってから、最適な構築方式を選ぶ順序で進めることをおすすめします。

KISのMESソリューションについて

KISでは、製造業向けシステム開発の知見と、DELMIA Aprisoの専任チームにより、要件整理から構築・導入・稼働後支援までをご支援しています。

MES選定の初期段階からのご相談も承っています。

具体的な事例、実現方法などご興味ありましたらどうぞ遠慮なくお問い合わせください。