半導体前工程製造実行システム(MES)システム構築編
前回の記事では、半導体前工程の複雑な工程状況の把握・管理を支える6つのシステムとシステム構築の鍵となる3つのポイントをご紹介しました。
→半導体前工程向け製造実行システム(MES)機能要件編はこちらから
KISは1970年に設立されて以来、半導体製造工場のお客様と一緒になって複雑な製造管理や工場全自動化を実現していく中で、業務知識やシステム化のノウハウを蓄積してきました。
今回は、半導体前工程の複雑な手順を効率的に管理・最適化するための具体的な方法と、
工場全体の自動化、精度の高い工程制御を実現するためのアプローチについて解説します。
ルールの確立と進捗予測の可視化で工程フローの最適化を実現
前工程では、同様の工程を繰り返す中で、設備の作業条件やロットの状態に応じてキャリア交換、ウエハー立替、リワーク、実験、代替などの対応が発生します。
特急ロットやロットの許容時間によって優先度の変更も必要です。
そのため手順が複雑化し、この何万もの手順を全てシステムで管理することは構築面や運用面でも難易度が上がります。
ここでは複雑な工程を管理するための方法を紹介します。
工程と作業条件のルール確立
まず、システムを構築する前に以下の3ステップでルールを整理しました。
・品名ごとの工程フローと作業条件の洗い出し
・複数の品名で共通利用できる手順(工程の並び)を整理
・手順内で品名ごとに異なる作業条件を設定し、工程と作業条件のルール確立
これによりシステム構築時に全体のプロセスが明確になり、効率的な工程管理が可能となります。
システムによる優先管理で柔軟な進捗変更を実現
リワークや特急ロットなどは生産ニーズに応じたロット・工程制御が必要です。
しかし、システムでロット優先度・ロット許容時間・設備の段取り情報を収集し、効率の良い搬送ができるように管理するには、多くの処理が発生し負荷がかかります。
そのため、非同期バッチ処理とロットの作業順序を入れ替えるアルゴリズムを導入し、進捗の柔軟な変更を実現しました。
生産シミュレータによる全体工程の把握
生産シミュレータでは、投入計画とパラメータで生産ラインによるシミュレーションを行い、予測値を元に実際の生産計画が組むことが容易になります。
これにより工場全体の仕掛状況を可視化することができ、同設備に何週目のロットが仕掛っているかを一目で把握することができます。
工程の変更が発生した場合でも設備の仕掛状況や製品納期を確認することが可能です。
高速トランザクションに対応した搬送制御システムによる自動化の促進
工場全体を自動化するには、人に代わり作業を行うロボット(搬送装置やウエハソータなど)とデータを管理し制御するシステムが必要です。
特に搬送制御システムでは、オンライン装置から報告されるロットの所在情報や仕掛情報をもとに次工程設備状況を確認し、最適な搬送先を選択し指示を行います。
<搬送制御システム>
これらの制御には、数百件/秒の高速トランザクション処理が発生します。
情報の検索・抽出・加工・格納を効率的に行うには、マスタ情報をプログラム上のメモリに展開し、処理することで、処理時間を改善し高速トランザクションに対応します。
柔軟な演算処理とAPCを活用した精度の高い工程制御
高品質な製品を安定的に生産するためには、ウエハー毎に管理し、製品状態に合わせて作業条件の制御を行います。
測定データの処理と活用
測定データの処理においては、特定の計算式に依存しない柔軟な演算処理が求められます。
マスタに記載された計算式を文字列のまま処理することで対応しました。
処理結果は新たな測定データとして保管され、規格判定やAPC(Advanced Process Control)に利用されます。
規格判定
測定データに対して規格判定を行い、製品が品質基準を満たしているかを確認します。
異常が検知された場合、対象のロットを即時にストップさせるシステムを構築しました。
これにより、不良品の流出を未然に防ぎます。
APC
APCでは、工程手順内で元工程、先工程を指定します。
元工程の測定結果に応じて、先工程の条件を可変でフィードフォワード(もしくはその逆、フィードバック)します。
フィードフォワード:元工程の測定結果をもとに先工程の条件を変更する
フィードバック :複数ロットの測定結果をもとに後続ロットの条件を変更する
これにより、全体の製造精度が向上し、安定した高品質な製品が生産できます。
さいごに
今回は下記3つについて具体的な手法をご紹介しました。
・ルールの確立と進捗予測の可視化で工程フローの最適化を実現
・高速トランザクションに対応した搬送制御システムによる自動化の促進
・柔軟な演算処理とAPCを活用した精度の高い工程制御
工場の自動化を進める上で、工程と作業条件のルール確立や自動装置とそれを制御するシステム、製品を管理し品質を担保する仕組みが不可欠です。
これらの方法を取り入れることで、複雑な工程管理、高速トランザクション処理、高いソフトウェア品質を可能にし、工場の全自動化を実現しました。
複雑な工程を管理する課題解決は、私たちにお任せください。